東京 六本木「La Sfoglina」に学ぶ、世界観で人を惹きつける店舗デザイン — テラスとファサードが語る“本物のイタリア”

店舗概要

項目 内容
店名 La Sfoglina(ラ スフォリーナ)
住所 東京都港区六本木7-3-22 やまうちビル 1F
業態 イタリアン
客単価 ¥8,000〜¥9,999
客席数 約40席(店内+テラス)

ファサードで心を掴む、「本物」を感じる世界観づくり

― 六本木の街に突如現れるヨーロッパの一角 ―

六本木のメイン通りを歩いていたとき、ふと視界の先にレンガと白い塗り壁が見えた。

テラスにはアイアンチェアと木のテーブルが並び、昼下がりの陽光を受けてワインを楽しむ人々の笑顔が見える。

まるで、ローマ郊外の石畳に佇むレストランのようだった。

「La Sfoglina(ラ・スフォリーナ)」は、外観の完成度が非常に高い。

レンガの赤みと漆喰の白、そのコントラストが美しく、奥行きを持たせたファサードデザインが通りからの視線を自然に吸い寄せる。

都会の中に“異国の空気”を持ち込むというコンセプトが、建築的に見事に成立している。

通りすがりの人が思わず立ち止まり、「なんだろう?」と思わせる。

それが“入りたくなるデザイン”の第一歩だ。

テラス席は、通りとの境界を曖昧にする絶妙な存在であり、街と店舗をつなぐ装置として機能している。

ドアを開ける前から「良い店だ」と感じる。

これは料理を食べる前にすでに「体験」が始まっているということだ。

設計者目線ポイント

  • ファサードは「店舗の顔」。第一印象の8割は外観で決まる。
  • 素材の組み合わせ(レンガ×塗り壁×木)に“世界観の一貫性”がある。
  • テラス席を設けることで、通行人との心理的距離を縮め、入店を促す導線が自然に生まれている。
  • 六本木という都会的ロケーションの中で「異国情緒」を演出することで差別化が成立している。

本物志向のインテリアが生む“体験価値”

― オーセンティックな素材と配置の妙 ―

店内に入ると、柔らかな声で「いらっしゃいませ〜」とスタッフが迎えてくれる。

入口から奥まで一望できる店内は、木とタイルと塗り壁が織りなす統一感ある空間

奥に構えるオープンキッチンでは、料理人がリズムよく動いているのが見える。

その光景が空間に“命”を吹き込んでいる。

内装は装飾的ではない。むしろ控えめだ。

だが、どこを見ても「安っぽさ」がない。

タイルの質感、塗り壁のムラ、木の温かみ——すべてが本物素材で構成された空間だ。

まるで、イタリアの田舎町の食堂をそのまま移築したようなリアリティがある。

この“素材の説得力”が、空間の信頼性を生んでいる。

デザインは派手でなくとも、素材が語る。

だからこそ、空間に深みが出る。

設計×オペレーションの融合ポイント

  • 厨房位置:奥に配置しつつ店内全体を見渡せる構造。サービスコントロールがしやすい。
  • 動線:テラス席もカバーできる導線計画。スタッフが常に目を配れる。
  • 照明:昼は自然光、夜は電球色で“温度感”を演出。光の設計が心地よさを生む。
  • 素材の真実性:塗り壁・木・タイルといった“経年劣化が美しく見える素材”を選ぶことが、長期的にブランドを育てる。

女性が集う理由 ― 世界観と空気感のブランディング

「食べる時間」ではなく「過ごす時間」をデザインする

ランチタイムの店内は満席。

ほとんどが女性客、またはカップル。

料理よりも“ここで過ごすこと”を楽しんでいる様子だった。

まさに「体験を食べに来ている」。

料理のポーションは小さめ。

一皿ごとに丁寧に提供され、器の余白が絵画のように美しい。

“少し物足りない”という声もあるかもしれないが、それこそ計算された設計。

ゆっくりとしたリズムで食を味わう体験を提供している。

内装も、白壁に木の梁が走る構成。

壁のムラ感、床の素朴さ、手触りのある椅子。

すべてが「完璧すぎない美しさ」を持ち、女性が求める“やさしい非日常”を演出している。

空間ブランディングの学び

  • 「美味しい」よりも「世界観への共感」で人は再訪する。
  • SNS映え=雰囲気と光のデザイン。写真で“空気感”が伝わる店は強い。
  • 女性客にとって“素材感”は信頼の指標。本物志向が共感を呼ぶ。
  • 照明・音量・席間距離のバランスが“居心地”を左右する。

料理の出し方と空間演出の関係性

待ち時間すら“心地よさ”に変えるリズム設計

コースは4,500円。

前菜、パスタ、メイン、デザートがゆったりとしたテンポで提供される。

一皿が出てから次の皿まで、少し間が空く。

しかし不思議と“待たされている”感じがしない。

空間全体がその時間を包み込んでいる。

光の具合、香り、テラス越しに見える通行人。

すべてが“シーン”になっていて、時間が空間と一体化している

これは、空間設計とオペレーションが一体化しているからこそ生まれる体験だ。

スタッフも急がない。

それでいて、目線が常にお客の動きを追っている。

“スピードよりタイミング”を重視する設計思想が感じられる。

提供テンポ×空間デザインのポイント

  • 間(ま)の設計:提供間隔を計算することで、滞在体験をデザインできる。
  • 光の演出:自然光+テーブルライトで料理が主役になる。
  • テーブル寸法:皿の余白を美しく見せる「小さめテーブル」は有効。
  • 音と香りの効果:キッチン音・オリーブオイルの香りが空間の一部になる。

価格ではなく“時間の価値”で選ばれる空間

コスパよりも記憶に残るランチ

会計は9,000円ほど。

ランチとしては高めだが、食後の満足感は数字以上。

「誰かと特別な日に来たい」と思わせる力があった。

この“目的性”こそ、飲食店経営におけるブランドの価値だ。

つまり、「La Sfoglina」は価格競争ではなく体験競争で勝っている店

料理だけでなく、空間と時間の提供を通して「記憶に残る体験」を作っている。

この考え方は、今後の飲食店経営のヒントになる。

物価高や人件費上昇で単価を下げるのが難しい時代、

“価格に見合う満足”をどう設計するかが問われている。

その答えがここにある。

設計×経営の視点

  • 「満腹」よりも「満足」を設計する。
  • 世界観が一貫していれば、価格に対する抵抗は薄れる。
  • “特別な時間”に位置づけることで、高単価を正当化できる。
  • ファサード→空間→料理→余韻。この一連の体験を設計することが“ブランド体験”になる。

La Sfoglinaが示す「行きたくなるデザイン」の方程式

ファサード・空間・体験の三位一体設計

「La Sfoglina」は、“デザインの一貫性”が店の強みを作っている。

入り口の世界観、素材の選び方、照明の温度、サービスのテンポ。

どれもバラバラではなく、ひとつのストーリーでつながっている。

それが結果として、「紹介したくなる」「また来たい」という心理を生む。

この“紹介されるデザイン”こそ、広告を超える最強のマーケティングだ。

設計者の学びまとめ

  • 入りたくなるデザイン:ファサードで世界観を語る。
  • また来たくなるデザイン:素材と照明で“安心と上質”を作る。
  • 行きたくなるデザイン:ストーリー性が共感を呼び、口コミを生む。
  • 「体験価値=空間×時間×世界観」で設計すると、価格を超える満足が生まれる。

結論:デザインは“料理を美味しくする”力を持っている

La Sfoglinaを訪れて感じたのは、デザインが料理をより美味しく見せ、体験を価値に変えるという事実だ。

素材、光、音、香り——それぞれが料理を引き立てる“舞台”を構成している。

つまり、空間設計とは「料理の余韻を設計する仕事」でもある。

オーナーが店づくりを考えるとき、

・どんな客層に来てほしいのか

・どんな時間を過ごしてもらいたいのか

・そしてどんな気持ちで帰ってほしいのか

この“体験の設計”が明確であれば、

空間デザインとオペレーションは必ず一体化できる。

La Sfoglinaは、そのお手本のような店だった。

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