神戸三宮「やきとり鶏鳴」に学ぶ ― 隠れ家性と古民家空間を活かした店舗デザイン研究

店舗概要

項目 内容
店名 焼鳥 鶏鳴
住所 神戸市中央区下山手通2-12-7 大喜ビル1階奥
業態 焼鳥
客単価 ¥5,000~¥5,999
客席数 16席(カウンター8席、ベンチソファ2卓)

三宮の奥に潜む「やきとり鶏鳴」への入り口体験

茶室の躙口を思わせる「潜り戸」がつくる隠れ家性

神戸・三宮駅から徒歩数分。繁華街を歩きながら「このあたりだろうか」と探していると、思いのほか目立たない小さな行燈サインが目に入ります。看板らしい看板はなく、まさに知る人ぞ知る存在。入口はビルの奥にひっそりと構えられています。

そして特徴的なのは、茶室の躙口を思わせる低めの引き戸。腰をかがめて入るその動作は、ただの入店行為を「体験」に変えていました。背筋をかがめることで、外の世界から切り替わり、まるで特別な空間に招き入れられる感覚を覚えます。

これは単なる意匠的なデザインではなく、店舗の世界観に入るための「仕掛け」です。飲食店デザインにおいて入口は「最初の演出」であり、鶏鳴は入口で既に「特別感」「隠れ家性」を提示しています。

ポイント

  • 小さな行燈サイン=知っている人だけが辿り着ける秘密感
  • 躙口風の潜り戸=身体感覚による非日常体験
  • 入り口の設計だけで「特別な空間」を想起させる

古民家を思わせる店内 ― 暗がりと木の温もりがつくる非日常

ダウンライトと無垢材がつくる上質な落ち着き

戸をくぐると、空気が変わります。室内はダウンライトだけで照らされた暗がり。余計な演出を排した古民家のような空間は、静けさと重厚感をまとっていました。

壁は土壁風、カウンターは無垢の木でつくられ、堂々とした存在感。椅子に腰かけると、しっとりと落ち着いた時間が流れるような感覚になります。照明は間接照明を使わず、必要最小限の光で素材の質感を浮かび上がらせる。

これは「光を削ぎ落とすことで素材の存在感を引き立てる」設計手法。店舗デザインにおいて、派手な装飾や演出はしばしば目を引きますが、鶏鳴はあえてそれを排し、素材投資に重きを置いていました。結果として、暗がりの中で木と土の温かみが際立ち、上質な雰囲気が漂っています。

ポイント

  • 無垢材・土壁=本物の素材感を強調
  • 照明は最低限=コスト削減と上質感の両立
  • 「暗さ」を使った落ち着きの演出

席配置にみる「距離感」と「居心地」の設計

カウンターとベンチソファが演出する2つの空間体験

店内の構成はシンプルです。メインはカウンター8席。正面には料理長が立ち、炭火で焼き上げる様子が目の前で展開されます。音と香り、職人の集中した表情が一体となり、まるで舞台を観劇しているかのよう。

一方、背面には庇付きのベンチソファが2卓配置されています。カウンターと距離を取り、別空間のような落ち着き。ここでは接待や夫婦での会話が邪魔されずに楽しめます。

わずか16席の小規模店舗ですが、カウンターとソファという二層構造を持つことで、ターゲットの幅を広げています。ライブ感を楽しむ常連やカップル、大人の接待客。それぞれが居心地の良さを感じられるように設計されているのです。

ポイント

  • カウンター=ライブ感と素材の信頼性を高める舞台
  • ソファ席=庇を活かし、半個室的な安心感を演出
  • 席数は少なくても「シーンの多様性」を持たせる

大人が集まる焼鳥店 ― 客層とターゲットの明確化

「接待」と「大人デート」に振り切った空間戦略

訪問時、客層は40~50代の夫婦やカップル、接待利用のビジネスマン。賑やかな若者グループは一切見かけませんでした。

これは偶然ではなく、空間デザインとメニュー構成が完全にその方向へ寄せているからです。暗めの照明、上質な素材、席数を絞った静かな空間。そこに提供されるのは単価5,000円以上の料理と豊富な焼酎・日本酒ラインナップ。

つまり鶏鳴は「大人デート・接待専用」としてデザインされているのです。ターゲットを広げすぎず、特定層に絞り込むことで、ブランドが確立され、安定した単価を実現しています。

ポイント

  • 客層=大人世代・接待客に特化
  • 照明・席数・価格設定=すべてがターゲットと一致
  • 「誰を呼びたいか」を空間デザインで明確化

料理と空間の一体化 ― 焼鳥を「演出」するカウンター設計

炭火の音と香りを体験に変えるデザイン

焼鳥は一本一本が丁寧に仕上げられ、外は香ばしく中はジューシー。造り盛り合わせで多彩な部位を楽しみ、土鍋で炊き上げた季節の炊き込みご飯は、思わず唸るほどの完成度。

その味わいをさらに引き上げているのが、カウンター設計です。目の前で焼かれる鶏肉の香り、炭火の爆ぜる音。料理長の手元が照らされる照明。その全てが五感に訴え、料理そのものを「体験」に変えています。

飲食店にとって、料理はもちろん主役です。しかし鶏鳴では「料理の提供=演出」として空間に組み込まれている。これは特に小規模業態で大きな学びとなる要素です。

ポイント

  • カウンター設計=料理長の所作をライブ演出化
  • 音と香りを活かした五感体験=記憶に残る要素
  • 「料理を空間体験化する」ことで単価UPに繋がる

厨房オペレーションと設計効率

I型キッチンとバック厨房の使い分け

厨房はI型カウンターと奥のバック厨房に分けられていました。焼き場は客席側に向けて開かれており、仕込みや盛り付けは奥で完結する構成です。

3名(料理1人+ホール2人)で回していましたが、料理提供のスピードはスムーズ。I型は作業動線が短く効率的で、ホールスタッフも料理を受け取りやすい。ライブ感とオペレーション効率を両立させた典型例といえるでしょう。

飲食店開業者にとって、厨房設計はコストと効率を大きく左右します。鶏鳴のように「見せる部分」と「隠す部分」を明確に分けることで、少人数オペレーションでも高い満足度を実現できます。

ポイント

  • I型カウンター=効率的な作業動線
  • バック厨房=仕込みや盛り付けを見せない工夫
  • 少人数でも成立する「効率+演出」の設計

コストとデザインのバランス感覚

「素材投資」と「演出削減」で成立する上質空間

今回の会計は2名で12,200円(1人あたり6,100円)。料理・空間・サービスの満足度を考えると非常にコスパを感じました。

設計コストの観点から考察すると、無垢材や土壁など素材にはしっかり投資。一方で照明演出や装飾は抑え、全体のバランスを取っています。つまり「長持ちする素材には投資し、消耗的な演出は削ぐ」という明確なコスト配分。

これは開業者にとって大きな示唆です。限られた予算をどう配分するか? 鶏鳴の事例は「素材と体験」に集中投資する戦略が長期的な成功につながることを示しています。

ポイント

  • 無垢材や土壁=耐久性と上質感を生む投資先
  • 照明や装飾=削ぎ落としてコスト調整
  • 「素材と体験」に集中投資することが店舗価値を高める

総括 ― 鶏鳴から学ぶ店舗デザインの本質

「隠れ家性」「素材感」「ターゲット特化」が鍵

やきとり鶏鳴の体験から得られた学びは、単なる空間の美しさではなく、ターゲットを徹底的に意識した設計思想です。

  • 入口で隠れ家性を演出し、特別感を創出
  • 暗さと素材感で大人の落ち着きを形成
  • 席配置でシーンを分け、ターゲットを拡張
  • 厨房設計で「演出」と「効率」を両立
  • コストは素材と体験に集中投資

飲食店開業を考える方にとって、鶏鳴は「誰に来てもらいたいか」を明確に定義し、それを入口から厨房設計まで一貫させた好例です。

単なる焼鳥店にとどまらず、「大人のための焼鳥体験」を空間と料理で提供する。まさにデザインと経営戦略が一致した店舗でした。

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