「え?ここが居酒屋?」都会のオフィスビルに隠れた大箱店のギャップ演出
この日は家族と3人で夕飯を食べに秋葉原へ。目的地は、以前飲食店オーナーと訪れた魚金秋葉原店。魚がとにかく美味しかった記憶が残っていて、家族にも味わってほしいと思ったのがきっかけでした。
現地に着いたのは18時前。人通りはまばらで、日曜のオフィス街らしい静けさが漂う中、目的の建物を探していると、飲食店の気配がまったく感じられず一瞬不安になります。ビルの外観はまるで事務所ビル。居酒屋の暖簾も看板も目立たない。エントランスを抜け、エレベーターで2階へ上がると、ようやく一軒だけ賑わいを見せている店にたどり着きました。
店の扉を開けた瞬間、ガラッと雰囲気が変わります。熱気、活気、そして揚げ物の香ばしい匂いが鼻先をかすめ、カウンターでは職人たちが黙々と調理。その光景に、息子も「おいしそう!」と目を輝かせていました。
- オフィス街に紛れるような立地で“隠れ家感”を演出
- 外観からは想像できない賑わいで驚きを誘う
- 初動で感情を動かすことで、滞在への期待値を高める
“和の落ち着き” × “オープンキッチンの熱気”が生む空間体験
席に通されてまず感じたのは、落ち着いた空気感。店内のトーンは和を基調にしながらも、過度な装飾はなく、素材感を活かしたシンプルな仕上がり。無垢材のテーブル、抑えめの間接照明、そして天井に吊るされた和紙調の照明器具が柔らかな雰囲気を醸し出していました。
我が家は奥の半個室のような空間へ。小さなお子様連れや会話を楽しみたい客層にはぴったり。周囲の声が遮断されすぎず、それでいてプライベート感は確保されている絶妙なゾーニングでした。
対照的に、店の中心に位置するカウンター席はオープンキッチンを取り囲む形。ここでは焼き場から立ちのぼる煙や、包丁がまな板を叩く音、職人の動作そのものが“演出”となっています。視覚と聴覚、嗅覚まで刺激されるこのエリアは、まさにエンタメ空間と言えるでしょう。
- 和モダンな内装で、視覚的な安心感を演出
- オープンキッチンによるライブ感とシズル感の創出
- カウンターと個室のゾーニングで多様な客層に対応
「価格以上の満足」を生む、料理とサービスの設計バランス
着席してからの流れもスムーズ。お通しが運ばれてきたのですが、出てきたのはなんとカニクリームコロッケ。「お通しで揚げ物?」と一瞬驚きましたが、揚げたてのサクサク感と濃厚なソースがたまらず、家族全員が無言で完食。こうした“期待を良い意味で裏切る演出”が心に残ります。
料理は、鯖の味噌焼きや寿司、味噌汁といった定番メニューを中心に、青のり豆腐のようなおつまみも頼みました。全体的に素材の質が高く、丁寧な調理が感じられる。特に鯖は、脂の乗りと味噌のバランスが絶妙で、焼き加減もプロの技を感じさせます。
厨房の様子までは奥の席からは見えませんでしたが、スタッフの動きはスムーズ。ホールには7名以上のスタッフが配置されており、ピークタイムでも一定のオペレーションが保たれている印象でした。ただ、トイレへ向かう動線上にレジがあり、そこにスタッフが溜まりがちなのは少し気になりました。
- お通しで“驚きと満足”を同時に提供
- 子供から大人まで楽しめるメニュー設計
- 高い調理技術と素材力で価格以上の満足度
- スタッフ動線と空間設計に改善の余地も
設計者としての視点から学ぶ、繁盛店のつくり方
魚金秋葉原店で特に印象的だったのは、空間が「賑わい」と「落ち着き」の両方を共存させていること。これは、設計と運営が明確に連動していなければ実現できないことです。
例えば、オープンキッチンで“魅せる”ゾーンを演出する一方、ファミリー層向けには安心できる空間を用意。空間の使い分けと、その空間ごとの“価値”をどう定義するかが、繁盛店の肝となっているように感じました。
また、料理の質と価格設定、スタッフの配置など、すべてが設計の意図と一体化されているように見えました。内装だけでなく、「店の運営フローまで含めて設計する」ことの重要性を、改めて実感した時間でもありました。
- 滞在価値を空間デザインでコントロール
- 調理・サービス・価格の設計的な整合性が繁盛の秘訣
- 設計者もオペレーション視点を持つことで空間の質が上がる
- “人が集まる理由”を構造的に理解することが設計の本質
おわりに
魚金秋葉原店は、「派手すぎないのに記憶に残る」絶妙な設計バランスを持った飲食店でした。家族で過ごすにはちょうど良い安心感と、外食ならではのワクワク感を兼ね備えたこの空間は、設計者として非常に多くの学びがありました。
飲食店開業を考えているオーナーさんにとって、ただ「かっこいい店」や「高級な店」を目指すのではなく、「どういう体験をしてもらいたいか?」を軸に設計を考えることが、成功への近道なのだと改めて実感しています。