地下に潜む大人の隠れ家バー|西麻布で“選ばれる店”になる立地の仕掛けとは?
その日、西麻布交差点からふらりと裏道へ入った。
当初の目当てだったLibrary Lounge THESEが満席で、系列の「BOCTOK TOKYO」へ足を運ぶことに。紹介されなければ絶対に見つからなかったであろうこのお店。看板は控えめな内照式サインひとつだけ。
細い路地から光るそのサインを目印に、階段をゆっくりと降りる。目の前には重厚感のある鉄の扉。扉を開ける前から、“ただのバーではない”と確信するほどの演出だ。
この「入口までの物語」が、すでに体験の一部となっていた。
ポイントまとめ:
- 見つけにくさが逆に魅力となる、隠れ家立地の戦略
- 看板は内照式+最小限の情報でブランド感を演出
- 地下に降りる“動線の演出”が、入店前の没入感をつくる
ホテルラウンジ級の落ち着きと品格|バー空間を広く魅せる照明と段差の魔法
鉄の扉を開けると、まるでホテルラウンジのような広がりが目の前に現れた。
まず視線が吸い寄せられたのは、右手にあるバーカウンター。そこから1段下がる形で、奥にゆったりとしたソファ席が広がっている。レベル差が空間に立体感を与え、シーン分けが自然に行われていた。
明るめの木目、ニュートラルなグレー、光はすべて間接照明。必要なところだけをやわらかく照らし、まるで光が“浮かんでいる”ような感覚。空間全体の静けさが心地よく、思わず深呼吸したくなるような空気感だった。
客層は30〜40代の会社員風。ガヤガヤすることなく、言葉少なにゆっくりとお酒を楽しむ姿勢も、この空間にぴったりだった。
ポイントまとめ:
- 客席の段差設計で奥行きと高低差を演出
- 落ち着いたトーン+光のコントロールで空間価値を最大化
- ターゲット客層に合わせた“静かに飲む”設計思想
一杯3,300円の説得力|空間設計が価格に納得感を生む仕組みとは?
注文したのはジンベースのフルーツカクテル。香り高く、フルーティーさとアルコールのバランスが絶妙。
フードはポップコーンだけだったが、それで十分だった。
提供までは少し時間がかかったが、それすら気にならない。空間と空気が、待ち時間を“余韻の時間”に変えてくれる。
会計は2人で6,600円。1杯3,300円と考えれば、決して安くはない。ただこの体験を思い返すと、「この時間と空間を買った」と思えば納得の価格設定だ。
スタッフは3人ほどで、広い店内を過不足なくカバーしていた。接客はやや距離を感じるものの、この空気感にはむしろ合っていると感じた。
ポイントまとめ:
- 高単価でも「納得感」を得られる空間演出が必要
- 提供スピードも“設計の一部”として調整されている
- 接客のテンションも空間にフィットさせることが重要
設計者の視点から読み解く|“空間に価格を宿す”デザインとは?
このバーの設計で最も印象的だったのは、“物理的な豪華さ”ではなく“精神的な豊かさ”を設計している点だ。
たとえば、バーカウンターとソファ席の段差。 これによって、天井高が錯覚的に高く感じられ、結果として空間の“品格”が自然と高まっていた。
また、鉄の扉や地下への階段という「演出の連続性」が、空間の“始まり”をしっかりと設けており、これは一般的な居酒屋やカフェではなかなか見られない設計の緻密さだった。
空間に“意味”を持たせ、価格を乗せる。 この店はまさに、「高級感は内装材ではなく、体験の設計から生まれる」ことを教えてくれたように思う。
ポイントまとめ:
- 階段・扉・段差による“期待感の演出”が鍵
- 天井高の錯覚操作で「広く感じさせる」テクニック
- 豪華さより“丁寧な演出”が価格の納得感を生む
まとめ:飲食店オーナーにとっての学び
BOCTOK TOKYOは、派手さではなく「空気のデザイン」によって差別化された店舗です。
開業を考える方にとっては、
- 空間が価格に与える影響
- お客様の行動や感情を見越した動線設計
- 提供スピードや接客も含めた“全体設計”の重要性 を体験的に学べる貴重な事例となるでしょう。
「静かに落ち着ける場所」「人を連れて行きたくなる空間」。 それは、ただ高価な素材を使うことではなく、体験をどう設計するかにかかっているのです。
実際に訪れてみることで、空間の“余白”や“間”がどう設計されているか、ぜひ感じ取ってみてください。