西麻布の店舗デザイン研究 ― 「博多 鶴ふく」オーナー交代で変わる店の印象

店舗概要

項目 内容
店名 博多 鶴ふく 西麻布店
住所 東京都港区西麻布1-15-7 1F
業態 博多もつ鍋
客単価 ¥6,000~¥7,999
客席数 24席

オーナーが変わると店はここまで変わるのか?

美味しいけれど居心地が足りなかった「以前の鶴ふく」

西麻布の交差点を少し乃木坂方面に歩いた場所にある「博多 鶴ふく」。もつ鍋好きなら一度は名前を聞いたことがあるかもしれない。私自身も何度か訪れてきた。理由は単純、以前は深夜まで営業していたからだ。深夜の西麻布で、安心してもつ鍋を囲める場所は限られている。だからこそ、夜中の「最後の一軒」として重宝していた。

ただし、当時の印象を正直に言えば「味は美味しいけど、接客に心地よさが足りない」。スタッフは職人気質でぶっきらぼう。料理が出てくれば満足なのだが、空間全体の雰囲気は少し冷たかった。内装やメニューはよくできているのに、「また来たい」と思わせる力が少し弱いと感じていたのだ。

新しいオーナーで変化した「明るさと柔軟さ」

数年ぶりに再訪したとき、まず驚いたのはスタッフの雰囲気だった。以前の寡黙さが嘘のように、ハキハキと明るく、笑顔で迎えてくれる。その瞬間に「オーナーが変わったな」とわかった。

さらに違和感を覚えたのは、個室に子ども連れの姿があったことだ。以前なら考えられなかった。もつ鍋という大人向けの料理、しかも西麻布という土地柄もあり、子連れNGの空気が漂っていた。それが今は、家族連れが食事を楽しむ姿が見える。小さな変化のようでいて、実は大きな経営判断の転換だ。

料理も空間もほとんど変えていないのに、オーナーのスタンスひとつで「店全体の空気」が変わる。この変化を目の当たりにして、改めて飲食店の本質を考えさせられた。

まとめ

  • 味や空間は以前から高評価だった
  • 接客が「ぶっきらぼう」から「明るい」へと変化
  • 子連れ利用が可能になり、客層が広がった
  • 店の印象はオーナーのスタンスで大きく変わる

空間と人の関係 ― 設計では変わらない部分と変わる部分

空間デザインはそのまま

「鶴ふく」の空間は、古民家をモチーフにした和モダンスタイル。ガラス張りの風除室を抜けて入るアプローチ、L字カウンターと奥の個室、落ち着きと上質さを両立させたインテリア。設計上のハード面は以前とほぼ変わっていない。

段差や風除室による冷気対策、カウンターと個室のバランス、客席数に合わせたバックヤード動線など、設計者目線で見てもよく練られたプランニングがそのまま維持されていた。

人の動きが空間を変える

しかし、同じカウンター席に座っていても、体験はまるで違う。以前は淡々と料理が提供されるだけだったのが、今は声をかけてもらい、会話が生まれる。料理を待つ時間も楽しく感じられる。つまり、空間が持つポテンシャルを引き出すのは「人」なのだ。

これは設計者としても肝に銘じておきたい視点だ。図面の上で完璧なゾーニングを描いても、運営次第で空間の魅力は生きもするし、死にもする。

まとめ

  • 古民家モチーフ+和モダンの内装は変わっていない
  • 空間の快適性はオーナー交代前から確保されていた
  • 接客のスタンスが変わることで「同じ空間が別物」に感じられる
  • 空間の魅力を引き出すのは、スタッフの動きと人柄

経営者への示唆 ― 店を変えるのはオーナー自身

コストをかけずに変わる方法

今回の変化の本質は、大規模なリニューアルではない。追加投資ゼロで「印象の刷新」に成功している点が重要だ。経営者の交代、方針の転換、それだけで店はここまで変わる。デザインをいじらなくても「デザインされた店」になるのだ。

子連れ利用が示す経営判断

子連れを受け入れるかどうか。この判断ひとつで、利用シーンの幅が広がる。西麻布という土地柄では「大人の店」というブランドを守る方向性もあるが、あえて家族層も取り込む柔軟さを選んだ。24席という規模だからこそ、空席リスクを最小化する戦略とも言える。

設計者目線で考えると、個室を持っている設計はこうした経営判断の余地を残している。空間設計に柔軟性を組み込むことが、オーナー交代後の成功を支える要因になったといえる。

まとめ

  • オーナー交代=最も大きなデザイン変更
  • 投資ゼロで「印象刷新」が可能
  • 子連れ対応が稼働率を押し上げる戦略に直結
  • 柔軟な空間設計が経営判断の余地を広げる

料理・サービス・コスパ ― 三位一体の体験価値

料理は変わらず美味しい

もつ鍋の味は健在。出汁の旨味、モツの鮮度、王道を守る美味しさはそのまま。餃子やサバといったサイドメニューも強化されており、食事の満足度は高い。

夏にいただいた「かき氷風レモンサワー」は、見た目にも楽しい演出で、体験価値を上乗せしていた。

サービスのテンポと心地よさ

提供スピードは速すぎず遅すぎず。スタッフの声がけや気配りで、待ち時間がストレスにならない。これも以前と比べた大きな違いだった。

コスパの実感

会計は一人あたり約7,000円。西麻布という立地を考えれば、十分に「コスパが良い」と感じられる。空間・料理・接客が一体となった結果、「また来たい」と素直に思わせる店になっていた。

まとめ

  • 料理の味は変わらず高水準
  • ドリンク演出で体験価値を上乗せ
  • 接客改善によりサービス時間が心地よく感じられる
  • 客単価7,000円でも満足度が高く、コスパ良好

結論 ― 「デザインを変えずに店は変わる」ことを学ぶ

博多 鶴ふく 西麻布店の事例は、設計者にとっても飲食店経営者にとっても示唆に富んでいる。

  • 空間デザインは変わらない
  • 料理の味も変わらない
  • それでも「店は変わった」と誰もが感じる

その理由は、オーナー交代によって「人」と「方針」が変わったからだ。

飲食店は、空間デザイン(ハード)とオペレーション(ソフト)の掛け算で成り立っている。その中で、オーナーのスタンスこそが最大のデザイン要素になる。

設計者としての学びは明確だ。図面だけでは店は変わらない。人が入って初めて空間は完成する。

そして経営者としての学びもまた明確だ。オーナー自身が最も強力なデザイナーである。

飲食店オーナーへの実践的アドバイスチェックリスト

今回の「博多 鶴ふく 西麻布店」の事例から、オーナーがすぐに活かせる学びを整理しました。自分の店舗運営に照らし合わせてチェックしてみてください。

接客と雰囲気づくり

  • スタッフの接客スタイルは「お店の印象」を左右しているか?
  • 明るさや笑顔など、雰囲気を変える教育をしているか?
  • オーナー自身が接客に立ったとき、どんな印象を与えているか?

客層の柔軟な取り込み

  • 「子連れ」「女性だけのグループ」など、新しい層を意識しているか?
  • 客層拡大のために、空間の使い方(個室・半個室)を工夫できているか?
  • 客層を広げてもブランドを損なわないバランスを意識しているか?

空間デザインとオペレーション

  • 空間デザインがスタッフの動きやすさとリンクしているか?
  • 設計段階で「柔軟な運営方針」に対応できる余地を残しているか?
  • 内装を変えなくても「運営」で空間印象を刷新できる工夫をしているか?

経営判断とコスト感覚

  • オーナー交代のように「投資ゼロ」で変化を起こせる要素を見つけているか?
  • 単価設定は客層と合っているか?(立地・席数に照らして)
  • 稼働率を安定させるための「追加ターゲット」や「利用シーン」を想定しているか?

結びに ― オーナーこそ最大のデザイナー

「鶴ふく」の事例は、オーナーの交代がそのままデザイン変更となり、店舗の印象を刷新する力を持つことを示している。

  • 設計者視点では「空間に柔軟性を仕込む」こと
  • 経営者視点では「自分自身が最大のデザイナーである」こと

この2つを常に意識することが、飲食店の成功につながる。

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