東京駅直結という立地と丸ビルの特性
東京駅丸の内口を出てすぐ、ランドマーク的存在である丸の内ビルディング(丸ビル)。その5階に位置するのが今回訪問した「醍醐味 丸ビル」です。
丸ビルは「新丸ビル」「オアゾ」と並び、オフィスワーカーや出張ビジネス客、観光客を集客する大型複合施設。そのテナント構成は、高級和食からカジュアルな居酒屋まで幅広く、昼夜を問わず多様な客層を取り込みます。その中で、醍醐味は「大箱和食レストラン」として存在感を放っています。
店舗概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 醍醐味 丸ビル |
| 住所 | 東京都千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディング 5F |
| 業態 | 日本料理 |
| 客単価 | ¥15,000~¥19,999 |
| 客席数 | 120席 |
ファサードとエントランス ― 高級感をシンメトリーに演出

エレベーターホールを降りて横を見ると、まず目に飛び込んでくるのは象徴的なお花のディスプレイ。シンメトリーに構成されたファサードは、ゴージャス感・高級感・品格を直感的に伝えるデザインになっていました。
「思わず吸い込まれる」ように店内へと導かれるこの体験は、空間の入口設計が集客そのものを左右することを示しています。
- ポイント
- ファサードに「非日常感」を宿すことで入店意欲を高めている
- シンメトリーと花のディスプレイで「高級=整然とした印象」を強調
- エレベーターホール直結という立地を活かし、一瞬で選ばせる設計
内装とレイアウト ― プライベート感を重視した動線設計
案内されて店内に入ると、他の客席がほとんど見えないという設計に気づきます。各テーブルや個室はプライベート感を重視し、視線の遮蔽・音のコントロールが施されていました。
歩きながらのシークエンスの中に、随所に和の要素をちりばめたインテリア。これは「高級感」だけでなく、**接待・顔合わせ・記念日など“失敗が許されないシーン”**を意識した空間デザインといえるでしょう。
- ポイント
- 他客が見えにくいレイアウトで安心感を創出
- シークエンス設計により「歩く=期待を高める時間」に転化
- 用途の幅を想定した可変性のある個室設計
客層と稼働感 ― 「気配はあるが見えない」安心設計

実際に来店した際、他の客の姿はほぼ見えませんでした。しかし気配は確かにある。これは「人がいる安心感」と「プライベート感」を両立させた設計であり、特に接待やフォーマル利用で重要な要素です。
集客状況は視認できませんが、丸ビルという立地と個室需要を考えれば、昼はビジネスランチ/夜は接待や会食で安定的な稼働があると推測されます。
- ポイント
- 客層の「匿名性」と「安心感」を両立
- 稼働感を直接見せず、静謐さを保つ設計
- 高級店らしい「気配で察する」空間演出
メニュー構成 ― “おちょこ丼御膳”がもたらす驚き
今回体験したのは、小鉢に盛られた小さな丼が7〜9種類並ぶコース。目の前に一気に並ぶ華やかな光景は、まさに宝石箱のような体験でした。
加えて、鰻丼や会席料理など、伝統的な和食も選択可能。彩り豊かで写真映えする「おちょこ丼御膳」は、集客上の強力なフックになっていると感じました。
- ポイント
- “多種少量”の盛り付けで飽きさせない設計
- 視覚的インパクトが強く、SNSにも適合
- 和食の伝統とモダンな楽しみ方の融合
ドリンク戦略 ― 食事主体か、飲み主体か?

ドリンクはビール中心で、飲み主体ではなく食事主体という印象を受けました。これはメリット・デメリットが分かれる部分です。
- メリット:料理の評価がストレートに伝わり、外国人や食事重視層に強い
- デメリット:アルコール比率が低くなるため、客単価が上がりにくい
設計視点で見れば、ドリンクカウンターの存在感が小さいのも戦略の一部。店舗の意図として「食事の満足感」を軸にしていることが伺えます。
- ポイント
- アルコールで単価を上げる設計ではなく、料理で勝負
- ドリンク動線をコンパクトに抑え、空間を料理演出に集中
- *“食事メインで成立する和食店”**という位置づけ
サービスとオペレーション ― 大箱を回す設計力
120席という大箱規模の割に、料理提供には少し時間がかかりました。ただし、一度に料理が揃うスタイルは「視覚的インパクト」と「効率化」を両立した工夫でもあります。
スタッフ数は明確には見えませんが、多めに配置されている印象。大箱店舗では「人件費×効率設計」のバランスが重要ですが、この店は「体感価値を優先」する方向に寄せています。
- ポイント
- 提供スピードより「演出性」を優先
- 多人数スタッフで大箱を支える構成
- 効率より「確実な品質」を重視
価格とコスト感 ― 高いか、妥当か?

会計は一人あたり約8,000〜13,000円程度。立地・空間・料理を考えれば「妥当だがやや高め」という印象です。
サービス料や個室料などの上振れ要因もあり、レビューでも「価格感」に対する意見が目立ちます。設計視点では、価格と空間演出のバランスをいかに調整するかが課題です。
- ポイント
- 高単価だが立地と空間で納得感を持たせている
- サービス料・席料の「見える化」に改善余地
- 空間価値を価格に転嫁する典型例
競合比較から見える「醍醐味」の立ち位置
丸ビルには他にも高級和食や寿司、夜景会席などが入居しています。
- 上層階(35–36F):「暗闇坂 宮下」「銀座寿司幸」など夜景×接待向け
- 6F:「愚庵」「青ゆず寅」「ふじ喜屋」など中価格帯で名物・居酒屋的使い勝手
その中で醍醐味は、5Fという中層階で120席の大箱×個室多彩×用途幅を武器にしています。プライベート感・多用途性・名物メニューで勝負するのがポジション戦略といえます。
- ポイント
- 夜景組にはない「大箱団体対応」が強み
- ミドル価格帯居酒屋との差別化は「高級感」と「用途幅」
- 名物料理+空間設計=競合に埋もれない理由
設計者としての考察 ― 飲食店オーナーが学べること
今回の体験と調査を踏まえ、飲食店開業を目指す方に向けて「学び」を整理すると以下のようになります。
- ファサードは“数秒で選ばせるデザイン”に→ 丸ビルのような複合施設では特に「第一印象」が命。
- プライベート感と稼働感の両立→ 他客が見えない設計は「安心感」を生むが、“人がいる気配”を演出する仕掛けが必要。
- 名物メニューで視覚的インパクトをつくる→ 「おちょこ丼御膳」のように写真映え・会話の種になる料理は、強力な集客装置。
- 価格設計の透明性→ サービス料や個室料を明確に打ち出し、顧客の納得感を高める。
- 大箱はオペレーション効率より“確実性”→ 多少時間がかかっても「揃って出る=演出」になれば不満にならない。
まとめ ― 醍醐味に学ぶ「大箱和食店」のデザイン戦略

「醍醐味 丸ビル」は、高級感あるファサード、プライベート感ある動線、名物メニューのインパクト、大箱運営の安定感を武器に、競合ひしめく丸ビル内で存在感を保っています。
飲食店デザインの研究視点からは、**「眺望がない代わりにプライベート感を徹底した戦略」や、「名物料理を空間価値とセットで提供する設計」**が特に学びとして大きいと感じました。
飲食店オーナーがこの店から学べるのは、「高級感と用途の幅をいかに両立させるか」というテーマ。立地や客単価に合わせて、空間・メニュー・価格設計をどうバランスさせるかは、まさに店舗経営に直結するヒントといえるでしょう。
設計者チェックリスト ― 醍醐味 丸ビルから学ぶ店舗デザインの要点
1. ファサード・入口設計
- 入店を即決させる「非日常感」を数秒で伝えられるか?
- 花・照明・シンメトリーなどで高級感や象徴性を演出できているか?
- 複合施設内なら「視認性」と「差別化」を意識したデザインになっているか?
2. 動線とプライベート感
- 他客が見えない設計で「安心感」を与えているか?
- 歩く動線の中にデザイン演出(素材・照明・小物)を仕掛けているか?
- 個室・半個室を「用途別」に設計し、接待・顔合わせ・宴会など多様なシーンを想定しているか?
3. メニューと体験設計
- 名物料理を“視覚的インパクト”として設計しているか?
- 写真映え・SNS拡散を意識した盛り付け・器使いを取り入れているか?
- 食事主体か、飲み主体か? どちらに寄せるかを明確にしているか?
4. オペレーションとサービス
- 大箱運営では「演出と効率」のバランスをどう取るか決めているか?
- 提供スピードより「体感価値」を重視する設計になっているか?
- スタッフ動線がスムーズで、複数人配置でも干渉が起きにくいか?
5. 価格とコスト設計
- サービス料や個室料を「わかりやすく」提示しているか?
- 客単価と空間演出がバランスしているか?
- 「立地+空間+料理」の価値を客単価にしっかり転嫁できているか?
6. 競合との差別化
- 夜景・名物・価格帯など競合が強いポイントを把握しているか?
- 自店ならではの「用途の幅」や「名物料理」を武器にできているか?
- 新規出店やリニューアル競合に対応するための改善ポイントを持っているか?
























