クライアント理解から始める:事業と運営の視点
今回のクライアントは施設担当者であり、判断する経営陣ではないと言うところをまずは理解する必要があります。経営者は事業やブランドイメージなどを見るからです。しかし、担当者は運営の声を一番聞いているので、そこにヒアリング時にブレが生じてしまします。
そこで、設計提案はブランドイメージや集客効果を高めるだけでなく、日常の運営効率を意識した計画でなければなりません。担当者の立場を深く理解し、その先にいる事業者のことも見ていなければなりません。ブランドイメージの向上を図りつつ、集客・顧客満足・運営効率の三位一体でメリットを生むデザインを目指すわけです。この視点が、デザインの要所における判断を支える基盤となります。
コンセプト作り:五感に訴えかけるテーマの設定
今回はアスレチック施設のレストラン改装計画を考えた実例とともに学びたいと思います。
「五感で楽しむピクニック空間」をコンセプトに、視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚を活用し、自然の中でリラックスしつつ冒険心を感じられる空間を目指しました。このテーマは、すでにある施設全体イメージに合わせた結果です。訪問者がただの食事という時間の過ごし方ではなく、思い出に残すレストランにするためです。そういった空間づくりは、デザインのみならず、集客や施設イメージを上げ、顧客の満足度を高める効果があるからです。
顧客体験のシナリオ構築と空間レイアウトの設計
エントランスから退店まで顧客の体験をシナリオとして設計することで、より満足度が高まる空間になります。
顧客体験シナリオの流れ
- エントランス:森をくぐるようなアーチ状の入口で、ワクワク感を演出。広めの動線と自然音のBGMで、自然に誘われる空間にしつつ管理しやすい構造に。
- メニュー選び:ピクニック地図のようなメニュー案内板を導入。動物キャラクターをあしらったデザインで視覚的な楽しさを演出し、メニュー選びのワクワク感を増加。
- 座席エリア:切り株風ベンチやピクニックシートを使用したレイアウトで、大人数や家族でもくつろぎやすく。清掃やメンテナンスを配慮し、耐久性と管理しやすさを兼ね備えた素材を使用。
- 食事を楽しむ時間:調理の音や自然音をBGMとして採用し、自然光と吊り下げグリーンの配置で開放的な雰囲気を演出。高い天井を活かし、空間に広がりを持たせます。
- おかえりの導線:逆方向からエントランスを抜ける際に見える異なる景色が最後の余韻を深め、記念撮影スポットで訪問の思い出を写真に残せるように工夫。
素材と色彩の選定:管理しやすさを考慮したデザイン
素材と色彩の選び方
自然な雰囲気を演出するため、緑や茶色をベースに、木の実や果物のポップカラーをポイントとして配置。耐久性とメンテナンス性を重視した選定が必要になります。木材や布素材を中心にアウトドア風の要素を取り入れました。
また照明計画もメンテナンスに配慮した計画をします。大きな窓からは自然光を取り入れ、照度をフォローしつつも、吊り下げグリーンが視覚に立体感を与えつつ、管理面の負担を最小限に抑えています。空間全体で「自然の中で過ごすようなリラックス感」を提供しつつ、施設管理の観点からも運営しやすい設計を意識します。
工事の段階的計画と実装
工事計画は、限られた工期であるため3期に分け、各期の目的と対象エリアを明確に定めました。
第1期工事:ブランドイメージ向上を目的とした改装
まずは、集客力に直結するエントランス、メニュー掲示、注文カウンター、座席、壁、床など、顧客の目に入りやすい箇所を改装。五感に響く空間を形成し、初見のインパクトを高めてブランドイメージを確立しました。
第2期工事:サービス力と効率化の改善
トイレと厨房を改修し、動線を見直して効率的なオペレーションを実現。厨房では調理動線を改善し、サービススピードが向上するほか、照明計画を見直して低い位置に配置し、清掃効率を高めながらリラックスできる空間を演出しました。日々の業務負担を軽減しつつ、顧客満足度の向上も図ります。
第3期工事:清潔感の強化
施設全体の清潔感と持続可能性を高めるため、天井や高い壁面を改装しました。天井部分には足場を組み、鉄骨部分の再塗装と清掃を行い、清潔で明るい空間を保つことで、長期的なメンテナンスコストの低減も実現しています。
コンセプト作りから設計、実装までの流れ
クライアントの奥深くに隠れた要望を探すために、コンセプト、シナリオ、空間デザイン、工事の段取りという流れを一体として設計することが重要なポイントです。その際に施設担当者の立場から見た「事業と運営の両立」を意識した空間設計では、クライアントである担当者の意図を明確に理解することが大切です。