はじめに:なぜこの店に訪れたのか?
今回訪れたのは、大阪・北浜エリアにある話題のミュージックバー「INC & SONS(インクアンドサンズ)」。大阪支店の代表・武久さんから「ここは空間雰囲気が良い」と紹介を受け、設計者としてその設計意図と空間体験を確かめたくなったので、一緒にいきました。
平日の夜にもかかわらず、賑わいと余白が共存する不思議な空気感。空間デザイン・音響・オペレーションが見事に調和したバー体験は、今後バー業態を検討している方にとって大きな学びとなるものでした。
店舗概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | INC & SONS |
| 所在地 | 〒541-0047 大阪府大阪市中央区淡路町2丁目3−12 CBM BLD. B1F |
| 業態 | ミュージックバー&カフェバー |
| 席数 | 約50席(カウンター・ボックスソファ・テーブル席) |
| 客単価 | ¥4,000〜¥4,999 |
ピンクネオンと煉瓦壁|“別世界”へと誘う入り口設計の妙

通りから店舗を見上げたとき、まず目を引いたのはピンクのネオン。周囲のビジネス街の落ち着いた雰囲気とは完全に対照的で、明らかに“異空間への入口”であることを主張していました。
地下へと降りる階段は、まさに非日常への導線。レンガ壁とブルックリン風の意匠が組み合わさり、すでにその時点で期待値は上がります。
暗がりの中にふわりと光るネオン、少し怪しげでもあり、ワクワクするような仕掛け。この導線の演出だけでも「来てよかった」と思わせる力があると感じました。
外観・アプローチ設計のポイント
- ネオンで非日常を印象づける「視覚フック」
- 地下空間へ誘うことで演出力を高めるアプローチ
- レンガ・配管・間接照明の“海外感”がブランディングに貢献
視線の先に輝くバックバー|第一印象で空間の重心を伝える設計

階段を下りて扉を開けると、まず視界に入るのはカウンターのバックバー。照度の落ちた店内で、ボトルが美しくライトアップされ、その存在感が空間の主役であることを一瞬で理解させます。
カウンターを囲むように配置されたボックス席やソファ席は、ほどよい距離感があり、空間全体に開放感とプライベート感がバランスよく混在しているのが印象的でした。
バーカウンターの厨房側の手元照明は約4000K前後の白色光。ドリンクの色味が美味しく美しく映えるようにドリンクが作りやすい設計されており、バーとしてのこだわりがしっかりと考えられていました。
空間設計のポイント
- エントランス正面に「照らされたバックバー」を配置し視線を誘導
- カウンターを中心としたボックス席構成で“囲う”空間演出
- 白色照明による「商品力」の意識の高さ
音と光と会話が共鳴する空間|サウンドデザインとインテリアの調和

この店の最大の特徴は音響設計。店内にはアナログレコードがずらりと並び、ALTEC LANSING製のスピーカーから柔らかくも力強い音が流れます。
会話を邪魔しないギリギリの音量で、音楽が空間の“呼吸”のように機能しており、サウンド設計の巧みさを感じました。スタッフによると、音の当たり方や残響まで細かく設計しているとのこと。
また、インテリアもインダストリアルとヴィンテージの絶妙な調和。天井のダクトや照明をあえて露出させ、全体のトーンを統一しています。
音響・インテリア設計のポイント
- 音楽が“主張しすぎない”絶妙なボリューム設計
- レコード×ビンテージ家具でブランディング強化
- 会話と音楽の“共存”を前提としたサウンドレイアウト
一杯に込められた美意識|ドリンク・サービス・運営の工夫

カウンターに座り、好きな味わいや気分を伝えると、バーテンダーが瞬時にその情報を咀嚼し、一杯を仕上げてくれます。クリエイティブでありながらも「ちゃんと美味しい」カクテル。空間だけでなく、味覚体験としての満足度も高いです。
サービス提供のスピード感も絶妙。会話がひと区切りつくころにちょうど届くようなタイミングで、バー空間での“余韻”を大切にしているのが伝わってきました。
スタッフの動きは落ち着いていてスマート。2〜3人で運営されていましたが、無駄のない動きで50席をうまくコントロールしている印象でした。
オペレーション・サービス設計のポイント
- 会話の流れを読んだ「余韻重視」の提供スピード
- ソファ席では“放っておく心地よさ”を演出
- バーカウンターでは“対話できる場”として機能
誰が来て、どのように楽しんでいるか?|客層・価格・満足度のバランス
この日は平日の夜にもかかわらず、6〜7割の席が埋まっていました。来店者は20〜40代の働く世代が中心。服装や雰囲気から感度の高い人たちであることが伝わってきます。
3人で来店し、会計は12,000円。ドリンク2杯くらいでこの価格なら、空間と体験込みで考えると納得感はあります。とはいえ「お得」とまでは言えず、“価値を理解できる人”向けの価格設計です。
客層・価格戦略のポイント
- 感度の高い30代中心、女性客も多い
- 非日常演出とオリジナルドリンクで高単価に納得感
- 利用頻度よりも「思い出に残る一夜」の演出に特化
おわりに:設計者として「INC & SONS」から学べたこと

このバーの設計から学べた最大のことは、“空間・音・接客・味”のすべてが一つのストーリーとしてつながっている点です。
単に「かっこいいバー」ではなく、「その空間で、誰と、どういう時間を過ごすか?」までをデザインしている。その世界観に共感する人だけが集まり、満足し、リピートする──それが高単価バーの設計思想だと感じました。
これからバーを開業する人にとっては、照明・音響・導線・素材のすべてが「客層を定義する」設計であること、そしてそこに“余白”や“余韻”をどう仕込むか?が重要だと気づかされる好例でした。
設計は、五感すべてに問いかける体験装置である。そのことを、改めて思い出させてくれる夜でした。
























