失敗しないために?!「選ばれない店」のリアルな理由とは?【恵比寿|店舗デザイン研究】

店舗情報

項目 内容
店名 焼き鳥きんざん 恵比寿店
住所 東京都渋谷区恵比寿西1-7-12 MKTビル 3F
業態 焼き鳥
客単価 ¥5,000~¥5,999
客席数 41席

焼き鳥きんざん恵比寿店を訪れて:繁華街で埋もれる“惜しい店”の正体

きっかけは「打ち合わせ後の日本食」:偶然選ばれたからこそ見えたこと

ある日、バングラディシュから来日した経営者と、今後のビジネス展開を話すために都内で会食の場を設けることになりました。急な展開だったこともあり、打ち合わせを終えた恵比寿駅周辺で、すぐに入れそうな日本食店をGoogle Mapで検索。

いくつかの候補の中から選んだのが「焼き鳥きんざん 恵比寿店」。新店という情報が目に留まり、「まだレビューも少ないけれど、逆に良い体験ができるかもしれない」と、少しワクワクしながら予約もせずに訪問することにしました。

このように“偶然見つけた店”というのは、逆に設計者視点での観察においては貴重な経験値になります。

 ここでの学び

  • 繁華街での新店は、Google Map検索での第一印象が命
  • 見た目やSNSの印象で選ばれるため、ビジュアル整備が重要
  • 偶然選ばれた店こそ、真の設計力が試される

入店前に立ちはだかる“空中階”のハードル

現地に着くと、雑居ビルの3階。目立った看板はなく、エレベーターで上がるまで店舗の雰囲気が一切伝わってきません。

繁華街の“空中階”の飲食店は、来店のハードルが高い。その理由は、外からの視認性がない=雰囲気がわからないという不安要素があるからです。特に初めての客にとっては、「どんな空間なんだろう」という心理的な壁が生まれやすい。

実際、同行したバングラディシュの方も「ここでいいの?」と不安げな様子でした。

エレベーターの扉が開き、店内をのぞくと、思っていたより明るめのカジュアルな雰囲気。スマホで見ていた印象とのギャップを感じました。

 学びのポイント

  • 空中階の店舗は、外部からの期待値設定が非常に難しい
  • ファサードの代わりに、SNSや検索結果の写真が命
  • 写真と実空間のトーンに差があると失望につながる

空間デザインとサービスの“惜しさ”がもたらす印象のズレ

白木と明るい壁、カウンターとソファ席:設計は無難すぎると記憶に残らない

店内に足を踏み入れて最初に感じたのは「明るい寿司屋のような空間だな」という印象でした。

白木のカウンター、白い壁。清潔感はあるものの、どこか記憶に残りづらい無難さ。恵比寿という立地においては「尖っていない」ことが、逆に弱点になります。

設計的に言えば、特に素材や照明、色味における“アイキャッチ”が不足している。空間に入った瞬間に「おっ」と思える要素がないと、飲食店としては印象に残らず、SNS映えにもつながらない。

私は奥のベンチソファ席に案内されました。ベンチシートのレイアウト自体は悪くないですが、明るさ・素材のチョイスが“家庭的”な印象を与えてしまっていました。

設計者としての観察ポイント

  • 「清潔」は最低条件、“印象に残る設計”が必要
  • 空間の“トーン”が中途半端だとブランディングできない
  • ベンチシートの設計は「くつろぎ」と「回転率」の両立が鍵

オペレーション動線と配置:厨房は良いが、ホールが弱い

 

入口付近のカウンターからオープンキッチンが広がる構成は、臨場感もあり、設計としてもよく考えられていました。これは良かった点です。

一方、ホールの動きには課題がありました。スタッフは4名ほどいたように見えましたが、まだ慣れていない様子。空間に対してスタッフ動線が無駄に長く、注文確認や下げ作業もやや時間がかかっている印象。

また、テーブル席からはキッチンの動きが一切見えず、ホールの活気も伝わってこないため、食事の高揚感が得られにくい配置でした。

設計×オペレーションの改善点

  • オープンキッチンの魅せ方は“席との距離”も重要
  • スタッフ動線は、配置計画で改善できる
  • 空間全体に“ライブ感”を出すには視線設計が必要

料理は美味いのに“記憶に残らない”:空間と料理のトーンを揃える重要性

焼き鳥のクオリティは高いが、出し方とサービスが平凡すぎる

焼き鳥は、文句なく美味しかった。火入れも絶妙で、素材も良い。だが、出し方が平凡。

普通のお皿に、何の説明もなくサーブされる。串が並んでいるだけ。料理にストーリーや驚きを添える演出がないのは、非常にもったいないと感じました。

例えば「比内地鶏の特製タレ串です」などのひとことがあるだけで、料理の価値は1.5倍になります。

美味しさの“体験化”のポイント

  • 料理の味だけでなく「出し方・語り方」で印象が変わる
  • ストーリー性がないと価格に見合わなく感じる
  • 「普通に出す」は、無個性に感じられてしまう

価格と満足感のズレ:「コスパ良し」と感じるための演出設計とは

3名で20,000円。焼き鳥屋としては妥当な価格帯。

しかし、空間・演出・サービスが価格に見合っていないと「高い」と感じさせてしまうのが飲食の怖いところ。

競合が多く、高級店も多い恵比寿で戦うには、「料理がうまい」だけでは足りない。むしろ、空間やサービスで“期待以上”を感じてもらうことで、価格に納得してもらえるような演出設計が必要なのです。

価格設計×空間設計の重要性

  • 客単価は“体験全体”の価値と一致させるべき
  • 空間とサービスが「高級感」を補完する
  • 高い店ではなく「高そうに見えてコスパ良い」と思わせる演出が理想

総評:「惜しい店」だからこそ学びが多い、開業前に見ておきたい失敗例

新店だからこそ「強み」が見える設計が必要

新店は、レビューも少なく話題性もないため、「選ばれる理由」が必要不可欠です。

今回訪れた焼き鳥きんざん恵比寿店には、料理の質という“武器”はあるのに、それを活かしきれていない。空間も、価格設定も、どれも中間すぎて方向性が曖昧。

設計的に言えば、もっと「誰に向けた店なのか」を空間に表現する必要があります。照明、内装素材、席の距離感…それらすべてがブランドイメージに影響する。

新店設計の鉄則

  • 「誰に、どんな体験をしてほしいか?」を徹底的に設計に反映
  • 空間設計はブランド設計と一体化させる
  • 新店は“選ばれる理由”を明確に設計で示すこと

なぜ人気店ではなく、「改善すべき店」を見るべきか?

人気店を見ると、「こんなふうにやればいいのか」と思いがちですが、実際はマネしづらい要素も多い。

むしろ、今回のように改善点の多い店舗を見ることで、「こうすればもっと良くなる」「自分ならこうする」という視点が養われます。

焼き鳥きんざん恵比寿店は、“惜しい店”であり、これから飲食店を開業しようとする人にとっては、設計と運営の重要な気づきを与えてくれる場所でした。

開業前に見ておくべき「改善途中の店」の価値

  • 成功事例だけでなく“未完成な店”から学ぶ方が多い
  • 改善点を見つけるトレーニングになる
  • 自分の店で同じ失敗をしないための反面教師として貴重

今回の体験を通して、「なぜこの店は惜しく感じるのか?」という視点を持って観察し、設計や運営の改善ポイントを言語化しました。飲食店を開業したいと考えている方にとって、失敗から学ぶことは成功事例以上に価値があります。

次回は、空間とブランドが一致して成功している焼鳥店との比較レポートもお届けしたいと思います。

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