入りづらさが、なぜ“また来たい”に変わるのか?設計者視点で読み解く

麻布十番で飲食店を開業したい。
そう考えるオーナーさんから物件相談を受ける中で、「一度見ておいたほうがいい」と紹介されたのが BAARA Azabu-Juban でした。
今回の記事は、単なるバー体験記ではありません。
飲食店を開業しようとしているオーナーさん向けに、
- なぜこの店は入りづらいのか
- なぜそれでも“また来たくなる”のか
- デザイン・プラン・オペレーション・コストがどう結びついているのか
を、設計者の視点でひも解いていきます。
店舗概要(基本情報)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | BAARA Azabu-Juban |
| 住所 | 東京都港区麻布十番1-7-12 Ohmiyaビル B1F |
| 業態 | BAR |
| 客単価 | ¥5,000~¥5,999 |
| 客席数 | 約20席 |
なぜこの店に行こうと思ったのか

― 麻布十番で物件を探すなら、まず“答え合わせ”をしに行く ―
この店を知ったきっかけは、とてもシンプルです。
麻布十番で飲食店をやりたいオーナーさんからの紹介。
設計をする立場として、僕は「紹介される店」には必ず理由があると思っています。
特にこのエリアは、競合が多く、賃料も高い。
それでも生き残っている店には、必ず設計・運営・人の何かが噛み合っている。
「あえて目立たない店」
「でも、なぜか通ってしまう店」
その理由を体感しに行く、という感覚でした。
▼ この章のポイント
- 紹介される店=地域で“機能している店”
- 麻布十番は立地だけでは勝てないエリア
- 設計者は「答え合わせ」として現地を見るべき
店頭に立った瞬間の印象

― 正直、入りづらい。でも、それが狙いだとしたら? ―
まず率直な印象は、入りづらい。
地下へ降りる階段。
白く明るい内照式サインに、ロゴのみ。
情報はほぼゼロ。メニューも写真もない。
誰にでも開かれている雰囲気ではありません。
むしろ、「入っていい人だけどうぞ」と言われているような感覚。
ただ、その“排他性”が、麻布十番という街では成立している。
これが郊外なら成立しない。でも、ここでは成立する。
立地とデザインの関係性が、ここでは非常に分かりやすい形で現れていました。
▼ この章のポイント
- 情報を削ることで“選別”が起きる
- 高級住宅地×夜の街=排他性が価値になる
- ファサードは立地とセットで考えるべき
扉を開けた瞬間に見えたもの

― 最初に「人」と目が合う設計は、バーにおいて正解 ―
扉を開けると、正面にバックバー。
そして、バーテンダーと自然に目が合う。
「いらっしゃいませ」
声のトーンは低く、落ち着いている。
この一言で、店の“格”が決まると言ってもいい。
バーという業態では、
空間よりも先に“人”が印象をつくる。
そのためのレイアウトになっている、と感じました。
▼ この章のポイント
- 入店直後にスタッフと視線が合う配置
- 接客のトーンが空間の印象を決める
- バーは「人を見せる設計」が重要
店内空間デザインを読み解く

― 明るさとラフさ、その裏にある“計算” ―
店内は、バーとしてはやや明るめ。
真っ暗ではなく、表情が見える明るさ。
壁は白~クリーム系。
天井はグレイッシュで落ち着いたトーン。
壁には額がランダムに配置され、
どこかアットホームでラフな印象もある。
でも、ラフになりすぎない。
理由は天井と照明計画。
ここが効いているから、
「カジュアルだけど品がある」という絶妙なバランスになる。
▼ この章のポイント
- 明るさ=回転率だけではない
- 天井のトーンで空間の品格を保つ
- ラフさは“計算してつくるもの”
プランニングの最大の特徴

バックバーの“奥”に客席があるという発想
この店で一番「うまい」と感じたのが、プラン。
なんと、バックバーの奥に客席がある。
写真ではまず伝わらない。
物件形状は、地下で正方形に近い。
細長い物件が多い中、かなり珍しい。
この形だからこそできたプラン。
そして、行かないと分からない体験。
これが、リピーターにつながる。
▼ この章のポイント
- 物件形状を最大限に活かしたプラン
- 写真では伝わらない体験価値
- 「初回来店=答え合わせ」になる設計
客層と時間帯の関係
麻布十番のバーは、やはり夜が深くなってから
来店時は空いていました。
でも、時間が経つにつれて7名ほどに。
客層は、
・働いている世代
・経営者っぽい人
・大人の男女
バーは「時間を買う場所」。
特にこの立地では、遅い時間帯に真価を発揮する。
▼ この章のポイント
- 時間帯で売上構造が変わる業態
- 麻布十番=二軒目・三軒目需要
- 設計はピーク時間を基準に考える
ドリンクと料理の位置づけ
バーは“驚き”より“安心”を提供する
正直、ドリンクに大きな驚きはありません。
でも、それでいい。
バーは
- 雰囲気
- 会話
- 時間
を楽しむ場所。
料理も今回は乾き物のみ。
メニューを増やさない=オペレーションを軽くする。
これは、設計と運営がきれいに一致している例です。
▼ この章のポイント
- バーは料理で勝負しなくていい
- メニュー数=オペレーション負荷
- 設計は「やらないこと」を決める作業
スタッフ構成と動線

2名運営が成立する理由は、空間にある
スタッフは2名。
メインは落ち着いた中年男性。
動きに無駄がない。
そして、その動きが空間に合っている。
バーは、
スタッフの所作=空間の一部。
だからこそ、
バックヤードが目立たない=成功。
▼ この章のポイント
- 少人数運営を成立させる設計
- スタッフの動線が空間の質を決める
- バックヤードは“見せない設計”が正解
コストと価格のバランス
コスパではなく“関係性”で選ばれる店
会計は3人で約12,000円。
麻布十番では妥当。
でも、この店は
価格だけで選ばれる店ではない。
スタッフとの距離感。
空間の心地よさ。
「知っている店」という満足感。
それが、再来店につながる。
▼ この章のポイント
- 高立地では価格競争はしない
- 関係性がリピートを生む
- デザインは“記憶装置”になる
「入りたくなる・また来たくなる・行きたくなる」デザインとは?
入りたくなる
→ ロゴだけのファサード × 立地の力
また来たくなる
→ プランによる“未体験の席”
行きたくなる
→ 紹介される空間・人・物語
▼ 最終まとめ
- デザインは集客装置であり、選別装置
- プランは最大の差別化ポイント
- 設計・運営・人が揃ったとき、店は強くなる
飲食店開業を考えている方へ
この店は派手ではありません。
でも、続く理由が明確です。
「何を足すか」より、
「何を削るか」。
麻布十番でバーをやるなら、
一度、答え合わせとして訪れてみる価値のある一軒だと思います。
























