内装工事の費用はどこにかかる?主要工事項目とコスト構造を徹底解説〜ムダを見直し、賢くコストダウンするために

納得感のあるコストで理想の店舗を実現するために、一番重要なポイントは、工事項目の構造と連動を理解して“全体で最適化”することです。なぜなら、項目単位で判断すると見えないコストや手戻りが発生し、結果的に割高になることが多いからです。

そこで不満要素の原因の一つに「一部を削ったつもりが、全体コストはむしろ上がる」ということがあります。それを防ぐうえで大切なポイントは、内装工事を“項目ごと”ではなく“プロジェクト全体”として考えることです。

そのための重要な視点は以下の3つです:

① 各工事項目がどんな内容で、何にコストがかかっているのかを理解する

② 一式工事と分離発注の違い、それぞれのコスト構造を知る

③ コストダウンは“部分最適”ではなく“全体最適”で行う

それを実現する方法として、以下の5つがあります:

① 材料の選定を標準化し、仕入れ効率を高めてコストを抑える

② 設備や仕上げの仕様を早めに決定し、手戻りと再施工を回避する

③ 曲線や特殊形状は避け、造作はできるだけ直線化・ユニット化する

④ 同一職人・業者で工種をまとめられるように工程を設計する

⑤ DIYや施主支給を入れる場合でも、全体調整費が増える点に注意する

上記のポイントと手法を活用することで、筆者(RDL)が実際に設計・監修した飲食店では、コストを抑えつつ、工期と品質のバランスがとれた空間づくりを実現しています。

重要なポイントとして、“見積の細かさ=安さ”ではないということを、ぜひ覚えておきましょう。

目次

はじめに

飲食店や商業施設の開業を考えるとき、避けて通れないのが内装工事です。

しかし、見積書を見ても「一式」「諸経費」などの表記ばかりで、どこにどれだけお金がかかっているのか、正直よく分からない……という方も多いのではないでしょうか。

この記事では、飲食店デザイン研究所(RDL)が実際のプロジェクト経験から得た知見をもとに、内装工事における主要な工事項目をわかりやすく整理し、それぞれの工事がどういった構成で成り立ち、どこにコストが発生しているのかを徹底的に解説します。

さらに、コストダウンを考える際の落とし穴や注意点についても深掘りしていきます。「安く見える選択」が本当に賢い選択なのか?DIYや分離発注は得なのか?その判断軸もお伝えします。

内装工事の主要項目とコスト構造

解体・撤去工事

① 目的

既存の内装を取り壊して、スケルトン状態(白紙の状態)に戻すための工事。

新装工事の“準備段階”です。

② 主な内容

  • 既存の壁・床・天井の撤去
  • 廃材の分別・搬出・処分
  • 仮囲い、騒音・養生対策

③ コスト構造

要因 内容
面積 坪数が広いほど廃材・人件費が増加
素材 重量物(石材・モルタルなど)はコスト高
分別手間 ゴミの種類が多いとコスト増
時間帯 夜間・深夜作業は割増料金
処分先の距離 運搬費がかかるケースあり

④ コストダウンのヒント

  • 軽量素材の内装なら解体費が安い
  • 自分で使える家具・什器は再利用前提で残す
  • 昼間の作業に絞ることで夜間料金を避ける

下地・造作工事

① 目的

空間の“骨組み”を作る工事。見た目に出ないけど最も重要な基礎工事です。

② 主な内容

  • 軽鉄下地(LGS)や木下地による壁・天井づくり
  • カウンターや間仕切りなどの構造体
  • 什器ベースや棚板用の骨組み

③ コスト構造

要因 内容
形状 曲線や斜め形状は加工手間がかかり高額に
材料種別 LGS(軽鉄)は比較的安価だが木材は高騰傾向
組み方 手間のかかるジョイントや段差が多いとコスト増
職人日数 現場滞在日数が多くなるほど人件費が増加

④ コストダウンのヒント

  • なるべく直線でユニット化できる設計を心がける
  • 間仕切りや家具を壁付けにせず“独立型”にすることで施工コスト削減
  • 木工造作は現場施工よりプレカット(工場加工)でコスト圧縮

仕上げ工事(壁・床・天井)

① 目的

空間の“見た目”を整える作業。お客様が最も目にする仕上げ部分。

② 主な内容

  • 壁:クロス貼り、塗装、左官、タイル
  • 床:長尺シート、フローリング、モルタル仕上げ
  • 天井:ジプトーン貼り、塗装、吸音ボード

③ コスト構造

要因 内容
材料費 高級材(天然素材・左官・特殊塗装など)は高価
施工面積 面積に比例してコスト上昇
施工難易度 柄合わせ、段差調整、角処理が多いと時間がかかる

④ コストダウンのヒント

  • 無理に高級素材を広範囲に使わず“アクセント使い”に
  • クロスや塗装は汎用品で統一することでロスも軽減
  • 床材は施工が早いシート材を使うとトータル工期短縮に

設備工事(電気・空調・給排水)

① 目的

お店の機能を支えるインフラ。表には出ないが最も重要な“裏方”。

② 主な内容

  • 電気:配線、コンセント、照明、分電盤工事
  • 空調:エアコン、換気扇、ダクトの設置
  • 水道:給水・排水配管、グリストラップ設置など

③ コスト構造

要因 内容
配線・配管距離 機器から電源や排水先までが遠いほど高額
隠蔽施工 壁や床の中に隠す作業は手間が増える
現場調整 他工種との取り合いで手戻りが発生しやすい

④ コストダウンのヒント

  • 電気・水道の位置を設計初期段階で確定させる
  • 既存設備の再利用(例:エアコン流用)を検討する
  • 壁際や露出施工で工賃を抑える手法も有効

什器・家具・造作金物

① 目的

空間に“使いやすさ”と“デザイン性”を加える重要な要素。

② 主な内容

  • カウンター、ベンチ、棚、サインなどのオーダー家具
  • スチール什器や装飾金物、ハンガーパイプなど

③ コスト構造

要因 内容
材料費 無垢材・アイアンなどは高価格帯
加工費 特注寸法・特殊形状は加工工数が増える
運搬・設置 大型什器は搬入費・設置費が加算される

④ コストダウンのヒント

  • 既製品やネット既成家具をベースに、部分的に造作する
  • 見せ場だけオーダーにし、バックヤードは汎用棚にする
  • サイズを建材モジュールに合わせて無駄な加工を省く

仮設・養生・清掃・諸経費

① 目的

工事現場を安全・清潔に保ち、トラブルを防ぐための管理コスト。

② 主な内容

  • 養生シート、床保護材、共用部の管理
  • 清掃・ごみ処分、安全教育、保険
  • 現場監督の人件費、共通仮設費

③ コスト構造

要因 内容
工期の長さ 長引くほどこの費用も積み上がる
工種の多さ 多職種調整が増えるほど管理費も増加
現場環境 テナントビル内や地下などは管理費増

④ コストダウンのヒント

  • 短工期で一気に終えるよう工程を組む
  • 共用部との取り合いが少ない物件を選ぶと安くなる
  • 現場監督1人で複数工種をまとめる設計にする

「一式工事=不透明=高い」は誤解?

見積書に「○○工事 一式」と書かれていると、「詳細がわからず不安」「ごまかされているのでは?」と感じる方も多いかもしれません。

しかし、「一式=高い」とは限りません。むしろ条件によっては、一式の方が効率的かつコストを抑えられる場合もあります。

一式とは「材料費+施工費」がまとめられた表現

一式表記とは、「この範囲の材料と作業をまとめて○円です」という意味です。細かく分けずに包括して見積もるスタイルで、以下がパッケージ化されています:

  • 材料
  • 加工
  • 搬入
  • 設置
  • 経費

一式が安くなるケース

  • 同じ業者・職人が複数作業を同時に行える場合、手間が減る
  • 分離発注に比べて調整や管理の手間が少なくなる
  • 一括発注により、スケジュールや人件費の効率化が進む
  • 搬入・養生・仮設などの共通経費が一度で済む

なぜ不安に感じられるのか?

「どこにどれだけかかっているかが見えない」と感じることから、以下のような不安が生まれます:

  • 見積の信頼性
  • 必要性の有無

対策:一式でも“構成要素”を質問する

「一式=不透明=高い」ではなく、「一式=簡略表示」。

信頼できる施工者に内容の内訳を確認し、納得感のある説明が得られれば、それはむしろ合理的な選択である場合も多くあります。

見積書を細かく“分解”することが必ずしも正解ではなく、“まとめて効率化”することがコストダウンに繋がるケースも多い、という視点を持つことが重要です。

部分最適ではなく“全体最適”で考える

コストダウンという言葉を聞くと、多くの人は「どこかの工程を削る」「安い業者に変える」など、いわゆる“部分的な削減”を思い浮かべます。しかし、これは必ずしも良い結果を生みません。むしろ、他の工程にしわ寄せが来て、全体コストが増えてしまうことすらあるのです。

部分最適のリスクとは?

例えば、以下のようなケースが挙げられます:

  • カウンターだけDIYで作成 → 取り合い調整に苦労し、設置時に再施工
  • 塗装だけ安い業者に分離発注 → 養生や工程調整に時間がかかり、かえって高額に
  • コンセント1箇所追加 → 電気工事業者の再訪問・出張費で数万円のコスト増

表面的には安く見える選択でも、工程の手戻りや業者間の調整コストが発生すれば、結果的に“高い買い物”になります。

全体最適の考え方

コストパフォーマンスを最大化するには、“コストを削る”よりも“コストを整理する”ことが重要です。以下のような視点が鍵になります:

  • 同じ業者・職人が複数の作業をまとめて行えるように設計段階から配慮する
  • 作業場所(ゾーニング)を集約して、段取り・搬入・養生の回数を減らす
  • 工程表を最適化し、職人の稼働日数を圧縮する

つまり、**「どこを削るか」ではなく「どう組み立てるか」**がコストに大きく影響するのです。

設計と工程は“まとめるほど安くなる”

  • 造作家具はまとめて加工・搬入すれば設置費を抑えやすい
  • 電気や水道は初期の設計段階で配置を決めることで、後の配線・配管工事がスムーズに
  • 仕上げ材を統一すると、端材ロスが減り、職人の作業効率も上がる

これらはすべて、“最初の計画段階”で決まることです。つまり、設計の質がそのままコスト効率を左右すると言っても過言ではありません。

見積書を読み解く“コスパ視点”とは?

見積書は価格交渉のためだけの資料ではなく、「コスト構造を知るための地図」です。ここでは、見積書を見るときに意識すべきポイントをまとめます。

見積の“コスパ良し悪し”を見るチェックポイント

チェック項目 見るべきポイント
一式表記 その内容を説明してもらえるか?内訳は聞いてOK
単価が極端に安い工事 他の項目で補填されていないか?材料グレードの確認を
諸経費・管理費 工期・規模と比較して妥当か?10〜15%は相場内
材料支給(施主) 調整コストが含まれていないか?別途項目として計上されていないか?
工程・工期 工事の順序と重なりに無理がないか?余裕があるか?

見積の本質は「金額」ではなく「構成」

金額の大小に一喜一憂せず、“なぜこの価格になっているか?”を構成から理解することが重要です

  • 材料費が高いのか?
  • 人件費(職人日数)がかかっているのか?
  • 施工条件が特殊なのか?

このように分解して理解できれば、「価格が高い=悪い見積」とはなりません。納得できる見積こそが、コスパのよい見積なのです。

RDLが実践する内装コスト最適化の進め方

では、ここまでに挙げてきた「全体最適」「構成理解」「見積構造の把握」を、実際の現場でどう活かしていくのか?RDLが設計・監修に関わるプロジェクトで実践している、内装コスト最適化のステップをご紹介します。

ステップ1:設計段階で“空間の役割”を定義する

すべての空間に「何のためにあるのか?」を定義し、造作や設備が必要最小限で済むように構成します。目的のない造作や装飾は、後で必ず“ムダ”になります。

ステップ2:早い段階で工事業者と打合せする

施工者との情報共有が早ければ早いほど、手戻りや設計変更による追加費用が発生しにくくなります。特に、電気・空調・水道は初期に方向性を固めることでコストに大きく差が出ます。

ステップ3:設計・施工側の目線をそろえる

設計者と施工者が“同じ目線”でプロジェクトに向き合うことが、無駄な予算の削減と仕上がりの品質確保につながります。相互の連携がとれていれば、工程も自然と効率化されます。

ステップ4:パーツ化・ユニット化の工夫

什器やカウンターをユニットとして制作し、現場では“設置のみ”にできると、工期・精度・コストが一気に改善されます。店舗規模に関係なく取り入れられる考え方です。

ステップ5:費用の“優先順位”を可視化する

すべてにコストをかけるのではなく、「ここだけはしっかり」「ここは見えないから安くてOK」など、クライアントと優先順位を共有することで、“効果的な投資”ができます。

よくある落とし穴とコストの“罠”を見抜く視点

内装工事では、見積金額そのものよりも「なぜその金額になるのか」「その金額の内訳はどのような構成なのか」を理解することが重要です。しかし、見積の細部に気を取られていると、思わぬ“コストの罠”に気づけないこともあります。

ここでは、RDLが実際のプロジェクトで遭遇した、よくある落とし穴を紹介します。

ケース1:分離発注で起こる「連携不全コスト」

「家具は安く作れそうだから、別業者で発注しよう」──その判断が、結果的に他工種との干渉や納期のズレを引き起こし、調整費や再施工費が発生。最終的にはトータルで割高に。

→ 対策:分離発注は“誰が調整するのか”を明確にし、工程管理まで想定して判断する。

ケース2:施主支給のつもりが「現場負担の増加」に

「この照明、ネットで買った方が安いですよね?」──確かに単価は安くても、施工者は取付保証・施工確認・搬入管理までしなければならず、別途管理費が発生。

→ 対策:「支給物=安くなる」は誤解。支給したものが現場に与える影響を必ず確認する。

ケース3:安い業者に依頼した結果「トラブル対応で逆コスト増」

見積で最も安い施工会社に発注。施工中に品質問題が多数発生し、やり直し費用やスケジュールの見直し、監理コストなどが増大。施主・設計者・現場すべてが疲弊。

→ 対策:単価ではなく“対応力・施工実績・連携のしやすさ”も評価軸にすること。

見積を比較する際に注目すべき5つの視点

内装工事の見積を複数社から取得した場合、単純な「金額の高低」だけで判断してしまうと、後々のトラブルや追加費用につながることもあります。ここでは、見積を正しく読み解くためのポイントを整理します。

① 工事項目の粒度が揃っているか?

見積は業者ごとにフォーマットも粒度も異なるため、比較するには「項目をそろえる」ことが重要です。一式表記と単価明細が混在している場合は、構成要素をヒアリングして整理しましょう。

② 各項目に“重複”がないか?

「仮設」「搬入」「養生」などは、複数工種で重複していることがあります。これらが一括管理されていないと、合計金額が不自然に膨らむことも。

③ 施工条件や保証内容は記載されているか?

夜間施工・保険対応・安全管理費など、工事に影響する“条件”が見積に含まれているかどうかで、実際の金額差が生まれます。

④ 材料のグレードと仕様が同等か?

同じ「床工事」でも、長尺シートと無垢材では10倍以上差が出ることもあります。見積金額だけでなく、仕様の前提条件が一致しているかを必ず確認しましょう。

⑤ 工期・着工タイミングと費用の関係性

繁忙期か閑散期か、工程が詰まっているかどうかでも、費用は上下します。見積の金額だけでなく、スケジュールの制約条件も照らし合わせて判断を。

おわりに:正しい知識こそ、最良のコストコントロール

内装工事のコストは“見積金額”ではなく“構成理解”によって初めてコントロール可能になります。

RDLでは、デザイン性とコストのバランスを両立しながら、長く愛される空間を実現するために、設計段階から徹底したコストマネジメントを行っています。

「見積がよくわからない」「高い理由が説明されない」「判断に迷っている」──そんなときは、私たちのような内装設計と施工に精通したプロに相談してみてください。

次回は「見積もりを取るときに準備しておきたい図面・資料リスト」や「設計者の立場でできるコストコントロールの技法」についてお届けする予定です。

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