【人が集まる店舗デザイン】麻布十番 KAPOJACK

はじめに:設計者が見た“勝負の店”の舞台裏

飲食店の設計や施工を手掛けていると、完成後の店舗を実際に訪れる瞬間は特別です。図面やCGの中で何度も見た空間が、実際に音や匂い、人の声に包まれて動き出す——それは設計者にとっての「答え合わせ」の時間でもあります。

今回訪れたのは、私たち飲食店デザイン研究所が設計施工を担当した麻布十番のスポーツバー「KAPOJACK」

知人だけが集まるプレオープンにお邪魔し、現場の空気を体感してきました。

麻布十番駅の出口からわずか1分。立地条件は申し分ないにもかかわらず、入り口は奥まっており、通りからは存在を感じにくい構造。ここからすでに「この店の戦い方」が見えてきます。

本記事では、実際の利用者としての体験と、設計者としての視点を融合させながら、店舗デザイン・オペレーション・コスト戦略の関係性を掘り下げていきます。

店舗概要

項目 内容
店名 KAPOJACK
住所 〒106-0045 東京都港区麻布十番1丁目4-3 THE CITY 麻布十番 DOMANI 1F
業態 スポーツバー
客単価 1,000円〜3,000円
席数 18席(スタンディング中心)
営業時間 朝9時〜21時
コンセプト ボートレース観戦を楽しむバルスタイルのスポーツバー

第一印象:通りの奥から光る“気配”

駅近なのに隠れ家感

大江戸線・麻布十番駅の出口を出て、ほんの数十歩。ビルの1階にあるにも関わらず、入口は奥まっていて、通りから中の様子はほとんど見えません。

多くの飲食店は「通りからの視認性」を重視しますが、この店はあえて“覗き込みたくなる奥行き”を利用しているように見えました。

ガラス越しに見えるのは、奥の方でふんわりと灯る光。夜道で目に入ると、ちょっと立ち寄ってみたくなるような温かさを持っています。

設計者視点のポイント

  • 奥まった入口は偶然客を取り込みにくいが、目的来店者には特別感を与える。
  • ファサード演出は必須。照明や看板の位置で通行人の視線を誘導できる。
  • 隠れ家感は「再訪率アップ」には有効だが、「初回集客」には弱い。

店内の世界観:ボートレース×バル文化

一歩入ればコンセプトが明確に伝わる

ドアを開けた瞬間、空間のテーマは一目瞭然。

バックバーには、ボートレースの1号艇から6号艇のカラーに合わせたボトルが整然と並び、正面のディスプレイには常にレース映像が流れています。スポーツバーといえばサッカーや野球が定番ですが、ボートレースという切り口は珍しく、差別化ポイントになっています。

インテリアの素材感

空間はレンガと木を基調に構成され、全体的にラフで温もりを感じさせます。壁の一部にはあえて塗装のムラや質感を残し、賑わいの中でも落ち着きを保つ色調にしています。

素材選びで重要なのは「テーマとの一貫性」。ボートレースのスピード感を出しすぎず、居心地を損なわないバランスが取れています。

設計者視点のポイント

  • テーマの即時認識性は集客の入口。写真一枚でも「何の店か」伝わることが重要。
  • 素材は“触感”を意識すると滞在満足度が上がる。木は温かみ、レンガは無骨さを表現。
  • 常時映像コンテンツは「空間の間」を埋め、静まり返る瞬間をなくす効果がある。

オペレーションと空間設計の関係

キャッシュオン方式のメリット・課題

KAPOJACKはキャッシュオン方式。注文と会計をその場で済ませ、商品を受け取るスタイルです。

オープンカウンターがその拠点となり、注文時にはスタッフと会話も楽しめます。

ただ、プレオープン時は慣れていないこともあり、客が会計後に席へ移動してしまい、提供時に探す場面が何度か見られました。これは運営フローの見直しで改善可能です。

スタンディング中心の空間構成

メインはスタンディングエリア、奥に少し高めのベンチソファを配置。短時間滞在を促し、回転率を上げる狙いがあります。さらに朝9時から営業しており、コーヒーだけの利用も可能。ヨーロッパのバル文化を日本で再現しようとする試みです。

設計者視点のポイント

  • キャッシュオンは人件費削減・回転率向上に有効だが、導線設計と接客教育が必須。
  • スタンディングは滞在時間を短くするが、カフェ利用と掛け合わせることで売上幅を広げられる。
  • 高さの異なる家具は、短時間利用と長時間利用をゾーニングできる。

客層と賑わいの印象

プレオープンの熱気

訪問した18時15分時点で、すでに店内はほぼ満員。30人ほどが賑やかに会話を楽しんでいました。客層はサラリーマンやOLなどの働く世代が中心。

本オープン後は、立地的に外国人観光客や近隣住民も加わると予想されます。

設計者視点のポイント

  • 店舗面積に対して“ちょうど良い混雑”を作れると心理的な入りやすさが増す。
  • プレオープンはSNS発信の絶好機。来店者の写真投稿を誘導する仕掛けが有効。
  • ターゲットが多様になると、席構成や音量設定に工夫が必要。

メニューと提供スタイル

視覚と記憶に残るメニュー

ボートレースの6色をモチーフにしたカクテルは、視覚的なインパクト大。SNS映えとコンセプトの一致で、注文を後押しします。

料理は生ハムなどの軽食中心。ドリンク主体の高回転モデルに合致しています。

提供スピードと接客の質

スタッフは3名で運営。注文のしやすさや提供のスムーズさにやや改善の余地を感じましたが、プレオープン時点でこれだけ連携が取れているのは評価ポイント。今後の伸びしろは十分です。

設計者視点のポイント

  • メニューはコンセプトとリンクさせることで「覚えてもらえる」。
  • 軽食主体は原価率を抑えやすく、粗利確保に有利。
  • 提供スピードよりも「注文のしやすさ」が売上を左右する。

コスト感と経営効率

会計と価格設定

今回の会計は3人で約1万円。このエリアでは比較的リーズナブル。キャッシュオンは心理的に小額を繰り返し注文しやすく、結果として客単価アップにもつながります。

設計者視点のポイント

  • 単価を抑えても、回転率次第で十分な売上を確保できる。
  • キャッシュオンは衝動注文を誘発するため、カウンター周りの視覚演出が重要。
  • 設計段階で「稼ぐ時間帯」を決めておくと、家具配置・照明計画が最適化できる。

まとめ:KAPOJACKから学べる“テーマ特化型”店舗設計のヒント

  1. テーマの一貫性を徹底する空間・メニュー・演出の全てがボートレースとリンクしており、初来店でも印象が強く残る。
  2. 高回転型業態の設計スタンディング主体+軽食メニューは短時間滞在を促し、効率よく売上を積み上げられる。
  3. キャッシュオン方式の活用人件費削減・衝動消費促進に有効だが、導線と接客フローの設計が鍵。
  4. 立地特性に合わせた外部演出隠れ家立地の弱点は、光や看板で補い、興味を引く仕掛けを作る。

この店は、単なる「おしゃれなバー」ではなく、テーマ特化型店舗の成功条件を多く含んでいます。今後の運営で細部がブラッシュアップされれば、麻布十番で長く愛される店になるはずです。

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